第3回
第一部 実験の基礎 仮説演繹法
相関から因果へ
1. X → Y
2. X ←→ Y
3. X ← Y Xの操作
4. X Y
↑ ↑
Z Zの統制
5. X Y 偶然の可能性の排除
表1.2 因果関係の条件
原因が結果よりも時間的に先行
原因と結果が関連する
他の因果的説明が排除される
科学的実証:仮説演繹法
仮説
「変数Xが原因で,結果Yが生ずる,という因果関係がある」
予測
「変数Xあるとき,Yが生ずるだろう」
→ 実証
帰納法の誤り
– 多くの事実を集めれば,仮説は支持されるか 常に集められなかった事実が存在する
仮説
「テレビで暴力番組をみると,子どもは暴力をふるうようになる」
では, 「テレビで暴力番組をみる回数が多いと, 暴力をふるう回数が多い傾向があった」 → 仮説は支持されたか
• 例
仮説
「雨が降れば(X)→道路が濡れる(Y)」
事実 「道路が濡れていた(Y)」
雨は降った(X)か?
論理学的誤り
• 後件肯定の誤謬 論理学的には誤り A → B
• B → A Bだからと言ってAとは限らない
「暴力をふるう回数が多いこどもは,常にテレビで暴力番組を見る回数が多いとは限らない」
• どのようにしたら A → B 因果関係を主張できるか
• 他の変数を考慮,統制したか
• 他の説明の可能性が排除されていれば,
A → B 因果関係を主張
Question
「仮説:テレビで暴力番組をみると,子どもは暴力をふるうようになる」 → 実証するために,事実をあつめた 「テレビで暴力番組をみる回数が多いと,暴力をふるう回数が多い傾向が認められなかった」
仮説は支持されないと言ってよいか? 理由は?
• 論理学的には,仮説は支持されない
「反証主義」
• 多くの事実を集めても,反証が1つあれば仮説は支持されないのか
反証主義の問題
• しかし,実証科学では, 仮説が正しくとも,反証されることがある
どのような場合か?
• 補助仮説の誤り
– 暴力番組を見る回数 x=暴力番組を見る程度 X
– 暴力をふるう回数 y=暴力的な振る舞いの程度 Y
• 他の変数の影響
– 視聴時間,番組内容 etc. が交絡していないか
補助仮説,他の変数の影響を考慮して,はじめて結論が出せる
実証の科学
他の説明の可能性をできる限り排除
「限界」を認めて,仮説を支持する
→ 仮説の精度をあげていく積み重ね
研究例 「イメージ」 「ダヴィンチのモナリザを思い出して描いてみよう」
• 実際の絵と何が異なっていたか
イメージ走査の実験例
問題 人間は絵のようなイメージをもつか
内観の問題
コスリンの実験
仮説
イメージが絵のようなものであるならば,離れた部分の走査ほど時間がかかる
課題と反応の工夫
• 内観 → 課題の試作
– ことばを使わない課題であることに注意する
• 他の研究者の追試
– イメージ以外の説明の可能性はないか検討
– 課題の改良
• 複数の異なった課題による検討
• 反応
– できるだけ単純な反応 (yes, no など)
– 内観による影響を防ぐ
• 実験の目的を知らない実験参加者
• 期待や願望の介入を最小限に
– 測度: 正答率 反応時間
コスリンの実験 「イメージ走査」
• 何度も書き写して正確に記憶する
• テスト 地図のイメージを想起
• ある地点が地図にあったか?
• 「岩場」 → 黒点をイメージ
• 「池」 → 移動 「Yes」
• 反応時間を測定
仮説
イメージが絵のようなものであるならば,離れた部分の走査ほど時間がかかる
ピリシンの批判
黒点をイメージしないと,反応時間は一定
記号列(命題)説
「ピリシンの考え方では,コスリンの結果は どのように説明されるか」
物理的な世界の知識をあてはめただけ
改良されたフィンケら実験
コスリンの実験からフィンケらの実験への 改良点,優位点をあげなさい
「フィンケの課題では,なぜイメージが空間的であると主張できるのか(なぜ他の説明が排除できるのか)」
短いRT
物理的知識の表象では説明できない
言語化は困難
仮説演繹法 まとめ
• 仮説 X → Y
• 予測を演繹 x → y
• 実証する
– 他の説明の排除
• 仮説を支持する
表1.2 因果関係の条件
• 原因が結果よりも時間的に先行 原因と結果が関連する 他の因果的説明が排除される
次回への事前準備
第4回 pp.20-30
課題 「バンデューラのボボ実験において,子どもたちを無作為に実験条件(暴力を見る条件)と統制条件(暴力を見ない条件)に割り当てることで,何が可能となるか」
次回のテーマ 「観察・調査と実験 」