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知覚のはたらき 2

 

一度に見ること:選択的注意 Selective Attention

 さて、私たちはどれだけの物を見ることができるでしょうか。身の回りにはたくさんの物がありますが、実は人間はそれらの中からごく一部を見ているにすぎません。これは、人間が一度に処理できる情報の量には限りがあるためと考えられています。つまり、情報の一部を選択的に処理することに人間の知覚のもう一つの特徴があるのです。このような選択的な情報処理活動は、「選択的注意 Selective Attention」と呼ばれています。選択的注意のはたらきは、外界の対象の特徴によって左右されますが、一方で、見る側の知識や学習の程度など、様々な要因の影響を受けます。例えば、目の動きは選択的な注意と同じではありませんが、しばしば選択な情報処理の実際を反映しています。目の動きを記録した古典的な研究(Yarbus, 1967)では、被験者に与える事前の情報(教示)によって、目の動きが異なることが示されています。

 

Yarbus (1967)

https://en.wikipedia.org/wiki/Eye_tracking#/media/File:Yarbus_The_Visitor.jpg

 

ボトムアップとトップダウン: Bottom-up & Top-down

 認知心理学は、人間の心のはたらきを情報処理活動として理解しようとします。視覚情報の処理は、外界からの視覚情報が網膜から脳へと伝達・転送されて変換される過程で進行します。この情報処理には、網膜からの入力の処理(ボトムアップ Bottom-up)と、すでに脳に用意されている情報や知識からの処理(トップダウン Top-down)がともに関わっています。このような情報処理は、いくつかの段階を経て外界の表象を形成していくと考えられます。最近では、視覚情報の縁やジャンクションから物体の輪郭を処理する経路(輪郭処理経路 Contour Processing Stream)と、色や動きの情報から物体の表面の特徴を処理する経路(表面処理経路 Surface Processing Stream)が2つの大きな処理過程として考えられています(Kellman, Gutman, & Shipley, 2001; 鵜沼、長谷川、& ケルマン, 2010)(Figure 3)。

情報の選択と統合:時間空間的統合

 選択的に処理された情報 (Figure 3) は、統合されて物体の表象を形成すると考えられています。リンゴという物体の輪郭の処理は、リンゴの表面の赤い色の処理とは別に進行しますが、そのあとの段階で2つの処理は統合されて「赤いリンゴ」としての表象(表現 Representation)を形成します。このような「情報の統合 Integration」は、選択的な情報処理と並んで、人間の情報処理の重要な特徴です。

 情報の統合的な処理は、輪郭と色のように異なる属性の間の統合の他に、空間的に異なる位置にある物体の選択的な処理を行いながら、それを統合する空間的な統合(Spatial Integration)でも行われます。目の動きや注意の移動などによって、空間的に異なる位置の情報を選択し統合することは、一度に処理できる情報が限られている人間の視覚ではとても重要です。さらに、このような統合は、一定の時間の幅の中で達成されると考えられます(時間空間的統合 Spatiotemporal Integration)(Palmer, Kellman, & Shipley, 2006; 鵜沼, 2013)。私たちの研究は、処理時間の違いによるこのような統合の結果の差異(つまり、「見え方」の違い)(Figure 4)を心理実験で検討しています(鵜沼, 2013; Unuma, Hasegawa, & Kellman, 2010)。

(2018/05/05 Hideyuki UNUMA)

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Figure 3. 輪郭処理経路と表面処理経路の流れ(Kellman, Guttman, & Shipley, 2001;鵜沼、長谷川、& ケルマン、2010)。長方形は知覚的処理段階を表し、六角形は視覚的表象を表す。形の表象(shape representation)から境界の割り当て(boundary assignment)への処理のようなトップダウン処理は省略。

S_Contour4by50.gif

Figure 4. 4つの図形を系列的に提示すると、時間範囲によって見え方が変わる(鵜沼, 2013; Unuma, Hasegawa, & Kellman, 2010)。

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