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感情と認知

 

感情の経験

 私たちが日頃、様々な感情を経験していることは、誰しも疑いようのないことでしょう。音楽を聴けば、穏やかな気分になったり、興奮したりすることもあるでしょう。家族の顔を見て、いつもと違えば心配になるかもしれません。あるいは、休み明けには自分が不安や緊張を抱えていると感じる人も多いでしょう。このような感情がなぜ生まれるのか、という疑問は心理学でももちろん研究されてきました。

 一方、近年の脳科学や認知神経科学の研究は、感情が脳でどのように生まれるのかを明らかにしてきました。例えば、恐怖の情動(ここでは、一時的な強い感情の状態を情動と呼んでおきます)は大脳辺縁系の扁桃体(amygdala)という部位が関連していると考えられています。また、快の情動の成立には、扁桃体と中心とするシステムと、報酬系と呼ばれるシステムの側坐核が重要な役割を担っていると言われています。さらに扁桃体は、前頭葉(前頭前野 prefrontal cortex)などと連携して、より複雑な感情を生み出していると考えられています。扁桃体は、自分の感情状態を意識することと同時に、身の回りの刺激、例えば他人の表情からその人の感情を知覚することにも関わっています。実際、扁桃体の障害は表情の認知を困難にすることが報告されています(Adolphs, Tranel, Damasio, & Damasio, 1994)。

 

参考:「恐怖する脳、感動する脳」国立精神・神経センター 湯浅 茂樹

http://www.brain-mind.jp/newsletter/04/story.html

 

Adolphs, R., Tranel, D., Damasio, H., & Damasio, A. (1994). Impaired recognition of emotion in facial expressions following bilateral damage to the human amygdala. Nature, 372(6507), 669–672. Retrieved from http://www.nature.com/nature/journal/v372/n6507/abs/372669a0.html

 

 認知心理学や感情心理学の研究は、感情や情動を生み出すこのような脳内のシステムが、どのような状況でどのような感情を経験(意識)させるのか、あるいは行動とどのように関連するかを問題にしてきました。例えば、表情は代表的な感情の表出行動です。「怖い人に会った」というような、ある状況で表出された表情が他の人間によって正確に認知されれば、表情はその状況を有効に伝えるコミュニケーション手段となるでしょう。エクマンら(Ekman & Friesen, 1975; Ekman et al., 1987)は、表出される表情はいくつかのカテゴリーに別れており、そのカテゴリーは人類に普遍的であるとしています。そして、表情の認知は異なる文化圏の間でも正確であると主張しています。私たちの研究室も、このような表情の認知の問題を実験を通じて検討しています(Hasegawa & Unuma, 2010; Hasegawa, Unuma, & Kellman, 2013, Unuma, Hasegawa, & Kellman, 2016)

​1 表情の認知

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